SR-71という、戦闘機というか、戦わない戦闘機があります。
ただ、逃げるだけの戦闘機。
世界で一番速いので、対空ミサイルどころか、ロケットをも
振り切ってしまう。
音の伝わる速度の4倍近くの速度で宇宙に飛び出しそうな高度を飛ぶ。
目的は地上を走る車のナンバープレートを読むというような
情報収集のための米ソ冷戦のときに活躍した戦闘機
その世界に数十人しかいない、戦わない戦闘機乗りが
書いた素敵な文章があったので、書きます。
[ それは月のない晩だった。いつも通り訓練任務で太平洋上空を飛びながら、
ふと「コックピットの中の照明を落としたら
高度8万4000フィートから見る空の眺めはどんな風だろう?
」と知りたくなった僕は、直線コースで帰路を急ぐ途中、
照明を全部ゆっくり落としてみたことがある。
ギラギラした光を消すと夜空が顔を現す...
数秒でまた電気をつけてしまった。こんなことしてるのが
ジェットに知れたら、なんか罰が当たるんじゃないかと
怖くなったのだ。しかし臆する気持ちは、
夜空を見たい欲望には勝てない。僕は照明をまたおもむろに暗くした。
するとなんと窓の外に明るい光が見えるではないか。
夜目に慣れると、その眩いものの正体は、きらきら空を渡る天の川だった。
いつもは闇の空間が存在するだけの空に、
今はきらめく星々の塊が所狭しと広がっている。
その空のカンバスを数秒置きに流れ星が縫っていく。
瞬きながら。それはまるで、音のない花火のディスプレイだった。
こんなことしてる場合じゃないぞ、計器に目を戻さなくちゃな...
それは分かっていたので、しぶしぶ機内に注意を戻した。
そしたら驚いたことに、照明は切ったままなのに
コックピットの計器が全部見えるのだ。星の光に照らされて。
鏡の中には、僕の金色の宇宙服が空の輝きに白熱灯のように照らされて
不気味に光っていた。最後にもう一度だけ窓の外を盗み見る。
こんな超スピードでも、天空を前にするとまるで静止画だ。
もっと偉大な力の輝きに囲まれる我々は、なんと小さいんだろう。
そう思った瞬間、僕は機内でやるどんな任務よりも
遥かに意味あるものの一部になった気がした。
ウォルト(相棒)の無線の鋭い声でハッと我に返り、
やりかけのタスクに意識が戻る。僕は高度を下げる準備体制に入った。